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神戸地方裁判所姫路支部 昭和61年(ワ)66号 判決 1988年1月26日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金七〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年二月一六日から支払済みまで、年三割の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び一項につき仮執行の宣言。

二  被告

主文一、二項と同旨の判決。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和五九年一二月一五日ごろ、被告に対し、弁済期を同六〇年二月一五日、遅延損害金を年三割とする約定で金七〇〇万円(以下これを「本件貸金」という。)を貸し渡した。(以下これを「本件貸借」という。)

2  よって原告は被告に対し、右貸金七〇〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和六〇年二月一六日から支払済みまで、年三割の割合による前記約定の遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

原告の請求原因事実は否認する。

第三  証拠(省略)

理由

一  本件貸借が、原告主張のように原被告間になされたものであるか否かについて検討するに、原告本人尋問の結果(一、二回)中には、原告の右主張に添う旨の供述があり、また被告作成部分の成立は当事者間に争いがなく、その余の各部分については、証人渡辺昇の証言及び被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲一号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同一号証の二、証人渡辺昇、同岡野哲也の各証言及び原告(一、二回)、被告各本人尋問の結果によれば、原告は、被告とは以前から知り合いであったが、訴外渡辺昇(以下「渡辺」という。)とは従来面識がなかったこと、被告は、本件貸借の際はもとより、これに先立つ昭和五九年九月ごろと同年一二月ごろの二回の各五〇〇万円ずつの金員貸借の際にも、渡辺と一緒に原告方に赴いており、かつ右のいずれの貸借の際にも、原告の求めに応じて、各金員貸借の担保のために訴外ワタナベ商事株式会社(以下「訴外会社」という。)が振り出した約束手形に裏書をして原告に交付したこと、昭和五九年九月ごろに貸借がなされた金員については、渡辺と同行して返済していること及び本件貸金の担保のために振り出された約束手形が不渡りになった後、被告は原告に迷惑をかけたとして謝罪していたことが認められる。

二  しかし他方、前掲各証拠(前掲各証人の証言及び原告(一、二回)、被告各本人尋問の結果中、後記各採用しない部分を除く。)によれば、次の各事実が認められる。

1  被告は、かねて取引のあった渡辺から融資先の紹介を依頼されて、以前から知り合いの原告を紹介したので、原告は、昭和五九年九月ごろと同年一二月ごろの二回にわたり、原告の事務所において、被告と同行して来た渡辺と話合いのうえ、同人が代表者である訴外会社に対し、いずれも弁済期は一か月先とし、利息は一か月五分又は一割とする約定で、それぞれ五〇〇万円ずつを貸すこととし、右各利息を天引きした各現金を渡辺に交付するとともに、右各貸金の担保のために、渡辺が持参した訴外会社振出しの、右各借受金額を手形金額とし、各弁済期日を満期日とする約束手形に、いずれも原告の要求で被告が裏書をして、原告に交付した。

2  しかし渡辺は、第一回目の借受金については、昭和五九年一〇月ごろに、原告の外出先である神戸地方法務局加古川支局まで被告と同行して、その玄関付近で弁済して、担保のために原告に交付していた約束手形の返戻を受けたが、第二回目の借受金については、約束の弁済期に弁済ができなかったため、利息を支払って借り増しをすることとし、あらかじめ被告から電話で原告に連絡をしたうえ、昭和六〇年一月一五日ごろ被告と一緒に原告方に赴いた。

3  このため原告は、渡辺と話合いのうえ、弁済期は一か月先とし、利息は一か月五分とする約定で、七〇〇万円を訴外会社に貸すこととし、右利息を天引きしたうえ残りの現金を渡辺に交付するとともに、右貸金の担保のために、渡辺が持参した振出人欄に訴外会社の記名押印のある約束手形用紙の金額欄に七〇〇万円、支払期日欄に昭和六〇年二月一五日と記入した約束手形一通(甲一号証の一)(以下「本件手形」という。)に、前同様原告の要求により被告がその第一裏書人欄に記名押印して裏書をして、これを原告に交付した。

4  渡辺は、原告から借りた前記各借受金を、いずれも債務の支払のために使用したが、その後昭和六〇年一月末ごろに訴外会社が倒産したため、原告が本件手形を満期に支払場所に呈示したところ支払を拒絶され、更に同年三月ごろには訴外会社が破産宣言を受けたので、被告は、訴外会社の倒産後、原告からの強い要求により、本件貸金の弁済方法等について種々の尽力をしたものの、結局履行されないで終った。

三  したがって、前記一の認定事実を右二の認定事実に照して考えると、結局本件貸借は、原告主張のように原被告間になされたものではなく、原告と訴外会社との間になされたものと認定され、前掲証人渡辺昇、同岡野哲也の各証言及び原告(一、二回)、被告各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用し難く、他に本件貸借が原被告間になされたとする原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

四  以上の理由により、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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